
第8章:中田ヤスタカという中庸の旗印 〜音楽性とアイコンの狭間で〜
そのなかで、どこにも属さず突き抜けていったのが中田ヤスタカだった。CAPSULEでの実験、Perfumeでの成功、そしてのちのきゃりーぱみゅぱみゅへと続く一連のラインは、確かな音楽性とテクノポップの進化を感じさせつつ、同時にポップアイコンとしての魅力も成立させていた。それらはテレビにもクラブにもネットにも対応するフレキシブルな音楽でありながら、確固たるプロデューサーの美学があった。
ネット世代のクラブ・ミュージックであり、YouTubeやSNSを通じて、自然に日常へと浸透していった音楽。リスナーを囲い込まず、音楽性を軸にしつつも開かれた空気を保っていたのが、この中田的な世界だった。ヤスタカ的存在は、“音楽的価値”と“ポップ性”が両立できることの希望だった。しかもこの時期は、ちょうどネットやiPod、YouTubeといった旧来のリスニング環境を壊すテクノロジーが一般化していく時代。
中田の音楽は、テレビでもなくラジオでもなく、自分のiTunesライブラリの中で輝く音楽だった。このスタンスは、のちにスマートフォン時代へと繋がる。ラジオアプリやサブスクによって、音楽がパーソナルで自由なものになっていく時代の、前哨戦のような存在だった。
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